主観的評価では、問診スキルを駆使して情報を収集しながら患者さんの病態・疾患を理解しつつ、コミュニケーションスキルを同じく駆使して信頼関係の構築を図っていきます。
臨床では、コミュニケーションスキルはとても重要です。どんなに頭が良くても、コミュニケーションスキルが低いと臨床では苦労します。
コミュニケーションスキルは、さまざまです。ビジネスで用いられるものもあれば、医療面接や動機づけ面接法 (Motivational interviewin)で用いられるような専門的な技術もあります。
私は臨床では、アイコンタクト、相づち、オウム返し、ペーシング、相手の名前を呼ぶ、雑談をする、といったコミュニケーションスキルを用いています。
アイコンタクト
「手が触れない程度の距離で患者の斜め前に座り、相手の目を見て話す」
簡単なことですが、苦手にしている方も多いのでしょうか。
私自身、アイコンタクトの重要性を認識したできことがあります。
オーストラリア留学したばかりの頃ですが、、オーストラリア人と話をしていると、すごい目を合わせられていると感じたことがありました。私の英語が通じてないのかな?と思い、「Do you understand my English?」と尋ねたことがありました。すると「大丈夫だよ」と言われました。
また、語学学校の先生と話をしていた時に、「Yuki 、相手と話す時は目を合わせた方がいいよ、目をそらすと何かやましいことがあると思われる」と言われたことがありました。
欧米文化では、相手の目を見て離すことが常識らしいです。一方、日本人は、目を見て話すことが苦手な人が多いそうです。「日本人 目を見て話さない 理由」で調べると、さまざまな説があります。
ちなみに、Do you understand English?よりも、Does my English make sense? Is my English making sense? の方がいいそうです。
相手に何か伝えたい時、大事なところでは相手の目を見て話すようにしています。外国人患者の場合は、目を必ず合わせるようにしていますが、日本人患者で目を合わせない人に対しては、目を合わせないこともあります。ケースバイケースですね。
相づち
言語的または非言語的に相づちを行うことで、相手に共感を示すことができます。
相づちの例(言語的)として、「はい」「そうでしたか」「そうですね」「なるほど」といった相づちがあります。
非言語的な相づちとして、「うなずき」があります。これまた、日本人という話になってしまいますが、日本人は話す時に「うなずき」が多いそうです。一方、欧米文化の人は、相手の目をじっと見て、うなずくことが少ないです。
オウム返し
オウム返しとは、相手が用いた言葉、ほぼ同じ言葉を用いて返すことで、相手に自分が理解したことを伝え返すことができます。
患者「腰が痛いです。」
理学療法士「腰が痛いんですね。」
動機づけ面接法 (Motivational interviewin)では、オウム返しを「単純な聞き返し」、発言の奥にあるものを「複雑な聞き返し」と2つの方法を紹介しています。
オウム返しの例を考えてみたいと思います。
パターン1:昨日の膝の痛み
患者「昨日は膝が痛かったんですよね」
理学療法士「今日はどうですか?」
患者「今日は痛くないです」
理学療法士「じゃあ、膝を確認してみますね」
パターン1:昨日の膝の痛み、オウム返しをした例
患者「昨日は膝が痛かったんですよね」
理学療法士「昨日、膝が痛かったんですね。今日はどうですか?」
患者「今日は痛くないです」
理学療法士「今日は昨日よりも膝の調子がいいんですね。じゃあ、膝を確認してみますね」
どちらがいいでしょうか。相手に自分が理解したことを示すとしたら、オウム返しした方が良さそうです。
パターン2:痛みの強さ
理学療法士「膝の痛みですが、0は全く痛くない、10は耐えられない痛みとしたら、数字で表すことはできますか?」
患者「・・・8です。」
理学療法士「8ですね。」
パターン2:痛みの強さ、オウム返しをした例
理学療法士「膝の痛みですが、0は全く痛くない、10は耐えられない痛みとしたら、数字で表すことはできますか?」
患者「・・・8です。」
理学療法士「痛み、お辛いですね。」
これは痛みの8に対して、辛い痛みですね、と返しています。
パターン3:症状が良くなっている、オウム返しをした例
理学療法士「今日は、調子はどうですか?」
患者「膝の痛みは良くなっています」
理学療法士「良くなっているんですね。」
パターン2:症状が良くなっている、オウム返し+α
理学療法士「今日は、調子はどうですか?」
患者「膝の痛みは良くなっています」
理学療法士「良かったです。膝の痛みが良くなっているんですね。」
相手に共感を示す、伝えるためには、、言語だけでなく、表情・態度なども非常に大切になってきます。
ペーシング
ペーシングとは、相手の話す速度、声の調子、言葉遣いなどを同調させることで安心感を与える方法、です。恋愛テクニックでも紹介されることがありますね。
全ての患者に対して、声の大きさ、話す速さ、声の調子、言葉遣いを同じように接するのではなく、相手に合わせて変えることが大切です。
すごいやる気のあるスポーツ選手と運動嫌いな高齢者では、ペーシングも変わります。
相手の名前を呼ぶ
相手の名前を呼ぶことで、相手に対してあなたを認識している、親しみを示すことできると思います。
受付で名前を呼んだ後は一度も名前を呼ばない、そんな理学療法士、周りにいませんか? そうならないように、名前を呼ぶようにしたいですね。
雑談をする
患者さんの性格、人柄、人間性などは、マネジメント・予後に影響を与えるため、早い段階で把握する必要があります。
雑談をしながら、患者さんの人となりを捉えつつ、信頼関係を築いていくことが大切ですね。
雑談する・・・といっても、話のネタは何がいいでしょうか。
天気、季節、出身、休日の過ごし方などは、比較的、話しやすい内容、ネタだと思います。
例)4月 26° の日
理学療法士「もう春ですね」
患者「そうですね」
理学療法士「それにしても、今日は、暑いですね」
患者「4月にしては暑いですね。」
理学療法士「暑いのと寒いのどちらがお好きですか?」
患者「暑いのは苦手だねぇ」
患者さんが「そうだね、そうですね」と同意をするような質問をすることで、会話が続けやすくなります。これは、交渉におけるイエスセット話法に近いかもしれません。
また、「〇〇(クリニックの最寄り駅)は、もう長いんですか?」も使えます。60歳の患者さんが「30年くらいかなぁ」と答えたら、「あっ、そうなんですね。ご出身はどちらなんですか?」という感じで、出身の話題に移ることもできます。
忙しい臨床の中で、疾患・病態だけの会話になってしまうと、臨床もうまくいかないことが多いです。特に陰性感情を抱いている患者は疾患・病態だけの話になりがちです。陰性感情を抱いた時こそ雑談が大切です。
慢性疼痛の患者が痛みの話題から外れて雑談をし始めた時は、痛み行動の減少が起きています。痛みばっかの話をする患者さんが、雑談をし始めたら、雑談をしましょう。
雑談の中で、共通点が見つかると自然と話題が生まれます。好きな〇〇、出身地、趣味、家族構成・・・見つかったら、「私も・・・」を話と広げられるといいですね。
まとめ
今回は、コミュニケーションスキルについて説明しました。
コミュニケーションスキルが低いと、患者対応だけでなくスタッフ間でも苦労します。
コミュニケーションスキルは先天的に上手な理学療法士もいますが、スキルとして向上すると思います。
アイコンタクト、相づち、オウム返し、ペーシング、相手の名前を呼ぶ、雑談をする、といったスキルを駆使して、治療同盟を結べるといいですね。