クリニカルリーズニング(臨床推論)、第4回目です。

  

前回は、共同的臨床推論モデルにおけるセラピストの最初のステップ「情報の認知・解釈」にについて解説しました。

 

共同的臨床推論モデルの最初のステップでは、事前情報を確認したら Cue(キュー:手がかり)を抜き出します、という内容でした。

 

Cue を抜き出したら、次は、Cueに対して仮説を立てる番です。

 

今回は、前回に引き続き「右殿部痛が主訴で腰部脊柱管狭窄症と診断された症例(下図)」を基に「初期構想&多数の仮説」について解説したいと思います。

  

初期構想・多数の仮説 

 

事前情報からCue を抜き出したら、Cue に対して仮説を形成していきます。

 

これらの、Cue から仮説として何が思い浮かびますか?

   

講義の中で、最初に仮説がでやすいのは「3ヶ月前〜、徐々に、右殿部が痛くなってきた。」です。

  

3ヶ月前から徐々に痛いということから、慢性期? 受傷機転はなさそう? 徐々にということで退行性変性疾患?といった仮説がでてきます。

 

また、3ヶ月という期間があるので、どこかで治療はしていないか?という仮説がでます。

 

右殿部が痛い、ということから、主訴は痛みのようだ、部位は片側であり、単関節なのか?という仮説がでてきます。痛みのタイプはこの段階ではまだまだわからない、という感じでしょうか。

 

右殿部にもう少し仮説を追加するならば、痛みの原因となる部位は腰椎?仙腸関節?股関節?、痛みの原因組織は軟部組織?関節?神経?でしょうか。 

 

次に、「最近、歩くのも痛くなり心配になったため、整形外科クリニックを受診した。」に対しても仮説を考えてみましょう。

 

歩くのも痛くなってきたということから、症状悪化の可能性、疼痛誘発動作は歩行なのか?といった仮説が立てられます。

 

また、歩行ということで、痛みがでるフェーズはあるのか(荷重?蹴り出し?)、時間や距離はどうなのか、といったことが仮説として立てられます。

 

歩行ということで、移動手段です。お仕事もされているので、通勤の影響はあるのでしょうか。

 

心配になって・・・ということなので、心理社会的要因(情動的要因)として考えるほどのものなのかどうか、といった仮説が立てられます。

 

次に「Aさん、60歳、DW(デスクワーク)、テニス週2日」というCue に対して、仮説を立ててみたいと思います。

 

ここでは、既婚者なのか、子供や孫はどうなのか、介護が必要な方が家族にいるのか、運動習慣があることから健康状態は良いのか、テニスはスクールなのか、友人としているのか、試合などには参加しているのか、といった仮説を立てました。

 

性別、年齢というCue から仮説を立てるとき、症状と合わせて好発年齢の疾患なども想起することもあると思います。テニスをしているから、テニスの動作で痛みはでるのか、といった仮説もでると思いますが、ここでは、ICFでいう個人因子・環境因子に関する仮説を立ててみました。

 

Cue に対して機能障害に関する仮説しかでてこない場合、臨床で立てられる仮説が身体機能・構造面だけになっている可能性があります。疾患・病態だけの理解にならないように気をつけたいところです。

  

という私も、若手セラピストの頃は、この情報からなかなか仮説がでてきませんでした。身体機能・構造ばっかりの頭になっていましたから。身体機能・構造はもちろん大切ですが、疾患・病態だけでなく人を理解するようになってから、臨床が変わりました。

 

疾患・病態を理解するためのDiagnostic reasoning と 人を理解するためのNarrative reasoning の2つが大事です。亀尾(2010)は、評価の早い段階で患者の性格・人間性・人柄などを把握し、対応方法を工夫、治療においてプラス&マイナス要素も評価することが大切と述べています。

 

最後に、医師の診察について仮説を立てたいと思います。

医師の診察が正しく行わているのか、検査内容は適切なのかどうか、身体所見は行っているのか、特異的な疾患であれば手術の可能性はあるのか、1週間経過しているため薬の効果&副作用はどうなのか、といった仮説を立てました。

 

整形外科クリニックで働く理学療法士なら、事前に医師の診療録が確認できます。身体検査を行わない医師もいるため、診断名の解釈には注意が必要となります。

 

まとめ

今回は、初期構想&多数の仮説について解説しました。

 

理学療法士は患者を良くするために、情報を収集して、情報から仮説を形成して、仮説の検証をして、情報を整理して、臨床で何を行うか決定します。情報から仮説を立てることはとても重要です。仮説を立てることで、検証したい内容が絞り込まれていくので、臨床意思決定までのスピードが速くなります。仮説を間違っていた場合も、検証してすぐに修正することができます。 

例えば、「Aさん、60歳、テニス週2日」というCue に対して「家族がいるかもしれない」という仮説が立てられたなら、「ご家族とお住まいですか?」と質問することができます。「夫と2人暮らし」と言う情報が収集できたら、更なる仮説を立てるとしたら「夫は元気だろうか?」です。夫のサポートが必要かもしれない、また、夫が何かサポートしてくれるかもしれない、といった感じで仮説が次々に出ることで検証をする速度が上がっていきます。 

  

次回は、次のステップ「仮説の修正・整理」について説明したいと思います。

次回に続く。 

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