クリニカルリーズニング(臨床推論)、第3回目です。

  

前回は、パターン認識と仮説演繹法、エキスパートのクリニカルリーズニング(臨床推論)について解説しました。

 

パターン認識とは直感的思考、仮説演繹法は分析的思考、エキスパートは両方を使い分けることができるという内容でした。

 

1995年、今から30年近く前に、Mark Jones 先生は、論文 Clinical reasoning and pain(Manual Therapy)にて、セラピストと患者が共同で行う臨床推論モデルについて説明しました。 

 

今回は、共同的臨床推論モデルとセラピストの最初のステップ「情報の認知・解釈」について解説していきたいと思います。

  

共同的臨床推論モデル

 

 

セラピスト側のフローチャートを見てみましょう。全部で6ステップあります。

 

  1. 情報の認知・解釈
  2. 初期構想&多数の仮説
  3. 仮説の修正・整理
  4. 臨床意思決定
  5. 介入
  6. 再評価

 

このステップを支えるのが、メタ認知、知識の構成、情報収集力、治療同盟です。ちなみに、書籍 Clinical Reasoning in Musculoskeletal Practice 2e, 2019, Elsevier では、この図は用いられていませんでした。また、初期では、知識、認知、メタ認知の3つが図に用いられていましたが、内容が少しずつ変わっています。

 

図の右側には患者がいます。患者にもフローチャートがあり、全部で5ステップあります。

 

  1. 患者の仮説
  2. 問題点の理解
  3. 治療方針の理解
  4. 治療参加
  5. 再評価

 

患者自身も仮説を持っています。情報収集を通じて、セラピストからの説明・アドバイス、安心を与えられることで、患者は問題点を理解していきます。

 

とてもわかりやすく、また、患者がいることを忘れちゃダメだよ、というのを教示してくれます。

 

日本でも過去に亀尾先生、中山先生がこの図を引用してクリニカルリーズニングを論文で紹介されています。原著の説明文では Ian Edwards は・・・というくだりがあり、引用は Unpublished paper(未発表論文)とあるので Ian Edwards さんの考えに基づいている図なのかな、と思われます。

 

情報の認知・解釈

セラピストの最初のステップ、情報の認知・解釈です。セラピストは、患者に事前に会う前に情報を収集します。

 

患者さんに会う前に事前に得られる情報として、問診票、医師の診療録、紹介状、他院からの申し送りなどがあります。これらの事前情報は、現病歴、治療歴、健康状態、既往歴、社会情報などに分類されていきます。

  

 

事前情報の1つに医師の診療録があります。一般的に、診断名、問診、検査内容、投薬内容、運動器リハビリテーションの指示内容といった情報があります。

 

しかしながら、情報の量と質は医師によって大きく異なります。画像検査だけで身体検査をしない医師の場合、画像所見のことだけが数行、書かれています(当たり前ですが、身体評価をしない医師は患者からの評判が悪いです)。事前情報が少ない場合は、セラピスト自身で確認、また、情報を収集する必要がありますね。

 

「〇〇の検査はしましたか?」と確認するのもありだと思います。勤務するクリニックの医師の特徴を把握し、対応策を考えることが大切です。

  

問診票ですが、整形外科クリニックに勤めるセラピストとしては事前に確認しておきたい情報の1つです。電子カルテで、かつ、問診票をスキャン&保村しているところでは、事前に確認できます。私は問診票を確認できるところ、できないところ、両方で働いたことがありますが、やはり確認できるところの方がいいです。

  

問診票の共有がないと、リハビリ時の問診で患者から「それ、問診票に書きましたけど?」と言われることがあるんですよね。

 

問診票を紙保存よりスキャン保存するメリットは、職場間での情報の共有が簡単、保管するスペースがいらない、シュレッダーをする必要がない、などがあります。デメリットは、プリンターを用意する必要がある、スキャンの時間がかかる、でしょうか。

 

電子カルテがあるところなら、スキャン保管の方がいいですね。

 

さて、問診票ですが、自分の勤めるクリニックの問診票の内容はご存知でしょうか?

 

知らない方は一度、確認することをお勧めします。問診票は医師が事前に知りたい内容になっており、医師の考え方が反映されているからです。

 

基本的な情報として、名前、性別、生年月日、住所、電話番号、職業、介護認定の有無などがあります。また、緊急連絡先の記載をしているところもあります。リハビリ中に何か起きた時のことを想定していますね。

 

当院を知ったきっかけを掲載しているクリニックは、集客・広告のことも考えているように思います。ご希望の治療方法を掲載しているクリニックは、患者の希望も考慮していると思います。

 

では、右殿部痛が主訴で腰部脊柱管狭窄症と診断された症例(下図)を基に、情報の認知・解釈を行ってみましょう。

この事前情報からCue(手がかり)を抜き出してみましょう。

 

Cue (手がかり)は、仮説を形成するために必要な情報となります。この事前情報ですが、限定した情報なので、ほとんど大事なCue(手がかかり)となります。

 

Cue(手がかり)を抜き出したら、次は、Cue(手がかり)から仮説を形成していきます。

 

まとめ

今回は、共同的臨床推論モデルとセラピストの最初のステップ「情報の認知・解釈」について説明しました。

 

次回は、「右殿部痛が主訴で腰部脊柱管狭窄症と診断された症例(下図)」を基に、次のステップ「初期構想&多数の仮説」について説明したいと思います。

次回に続く。 

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