理学療法士が行う評価は、主観的評価(問診)と客観的評価(身体評価)に大別されます。

 

患者さんと初めて会って、最初に行われるのが主観的評価(問診)です。

 

主観的評価では、問診スキルを駆使して情報を収集しながら患者さんの病態・疾患を理解しつつ、コミュニケーションスキルを同じく駆使して信頼関係の構築を図っていきます。

  

今回は、エキスパートと初学者の主観的評価(問診)の違い、初回評価用紙のメリット・デメリットについて解説したいと思います。

 

主観的評価

主観的評価の内容として、主訴、症状の傾向、現病歴、治療歴、活動・参加、心理社会的要因、仕事・生活習慣、健康状態・既往歴、ゴール・期待などがあります。

 

これらを系統的(順序だって組み立てられているさま)に情報を収集・整理し、身体評価を計画していきます。

熟練の理学療法士と初学者の理学療法士では、主観的評価に大きな違いがあります。

 

エキスパートは、主観的評価で情報を収集し、Cue(手がかり)を抜き出して仮説を立て、仮説を修正・整理して問題点を絞っていきます。そして、主観的評価を終えた時点で、複数の疾患・病態を想起し、身体評価を計画します。 

 

初学者の場合、まず、Cue を勘違いしてしまう、見過ごすといったことが起こります。今、患者が大事なことを言ったのにスルーしてしまうんですよね。また、早まった仮説を立てたり、自分の好きな仮説や一般的な仮説を正しいと思うといったことが起こります。

 

Peterson ら(1992)らの研究によると、医師は問診にて80名中61名(76%)は鑑別ができたことを報告しています。

 

また、Doody&Maateer(2002)らは、整形外科外来におけるエキスパートの理学療法士と初学者(ノービス)の理学療法士の臨床推論を調査しました。

  

エキスパート10名と学生10名を対象とし、実際の患者を診察・治療する様子を観察、テープ録音し検討した結果、全員が仮説演繹的推論プロセスを用いていることがわかった。しかし、エキスパートは、治療に焦点を当てた推論を行い、特に、徒手療法による治療をさらなる仮説検証の方法として用いていた。また、エキスパートは、仮説演繹的推論に加えてパターン認識も利用した。

 

エキスパートは、主観的評価に多くの時間を費やし仮説を形成することで、身体評価の段階で明確な考えを持っていた。一方、ノービスは身体評価においてエキスパートの2倍の時間を費やしていた。主観的評価において、エキスパートは平均14.22分、ノービスは平均8.6分、身体評価において、エキスパートは平均13.93分、ノービスは平均20分という結果であった。

 

主観的評価にかける時間は、1単位・2単位かによっても変わると思います。

初回2単位の場合、10〜15分になることが多いです。外傷・骨折、術後などの場合は、予め情報が揃っていることもあり、時間が短くなる傾向にあると思います。

  

時間的な制約がある場合(例:1単位)、質問を絞ってパターン認識を用いるか、初回は評価に留めて次回以降に介入するといった対応でもいいと思います。

主観的評価では、情報を収集しながら治療同盟を構築します。主観的評価を通して、患者の人を理解することで、信頼関係を構築し、治療同盟を結んでいきます。

 

わかりやすく言えば、「とりあえず患者と仲良くなりましょう、仲良くなったら情報も色々提供してくれるし、治療効果も上がるよね」という感じでしょうか。

 

まぁ、仲良くできない患者もいるにはいます。その場合は、プロフェッショナルとして陰性感情を受け入れ、対応をします。

 

初回評価用紙のメリット・デメリット 

契約勤務する整形外科クリニックでも初回評価用紙を用いています。

 

学生や新卒の理学療法士が系統的に主観的評価を行うためには、初回評価用紙を用いることが有用だと思います。

 

真白な紙に記録するという方法あると思いますが、エキスパートとノービスが混在するクリニックではセラピスト間で問診内容が大きく異なります

  

情報の不足は臨床意思決定エラーを起こすため、初回評価用紙を用いることは対策の1つとして考えています。

 

ただし、初回評価用紙にはメリットだけでなく、デメリットもあります。

 

メリットデメリット
情報不足が起こりにくい
情報を整理しやすい
他のセラピストと情報を共有しやすい
学生・新卒の指導をしやすい
ボディチャートが記録しやすい
内容が予め決まっている
初回評価用紙を身過ぎる(患者を見ない)
インタビューになりやすい
紙の保管の問題

 

今のところ、初回評価用紙を用いることの方がメリットを感じていますが、職場環境も関係あると思います。

  

パソコンが少ない職場では、問診中に電子カルテに記録できないので、初回評価用紙を用いることは有用だと思います。パソコン1人1台の職場だったら、電子カルテ内に問診内容を登録しておけば初回評価用紙を用いなくてもいいかもしれませんね。

  

まとめ

今回、エキスパートと初学者の主観的評価(問診)の違い、初回評価用紙のメリット・デメリットについて紹介しました。

 

エキスパート、初学者との比較を書きましたが、誰しもが最初は初学者です。私自身、エキスパートか?というと、脊椎についてはエキスパートと答えられますが、四肢については初学者ではないですが、まだまだ発展途上だと思います。

 

主観的評価(問診)はとても大事な評価です。忙しい臨床の中で、主観的評価と客観的評価(身体評価)がごちゃ混ぜになっていないでしょうか? 

 

患者を横にして身体を触りながらの問診している、今日は膝が痛いと言われてすぐ膝を触っている場合、主観的評価が不十分になっている可能性があります。

 

系統的で効率の良い主観的評価を行うことで、身体評価で行う内容が具体的になり計画しやすいです。一方で、主観的評価が曖昧だと、疾患・病態の想起も難しくなり、客観的評価(身体評価)に時間がかかることになります。

 

次回は、情報収集に必要なスキル「問診スキル」について説明したいと思います。

 

次回に続く。

初回評価用紙

  現在、使用している初回評価用紙を無料公開しています。   リハビリ助手との連携、管理のしやすさから、整形外科疾患すべてに対応できるような内容にしています。脊椎疾患に特化した評価用紙ではありません。良かったら参考にして […]

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