クリニカルリーズニング(臨床推論)、第2回目です。

  

前回は、クリニカルリーズニングとデュアルプロセスセオリー(二重過程理論)について解説しました。

 

クリニカルリーズニングとは臨床意思決定に至るまでの思考過程、デュアルプロセスセオリー(二重過程理論)とは、人はSystem1とSystem2の2つの思考を用いて情報を処理するという理論という内容でした。

  

理学療法士が臨床で用いるクリニカルリーズニングには、パターン認識と仮説演繹法があります。

 

今回は、パターン認識と仮説演繹法、エキスパートのクリニカルリーズニング(臨床推論)について解説していきたいと思います。

 

パターン認識と仮説演繹法

 

パターン認識は System 1(直感的思考)、仮説演繹法は System 2(分析的思考)で説明されます。

パターン認識とは、限られた患者情報や主訴から、即座に疾患・病態を確信し診断および治療方法を決定します。スピードは早いですがが、バイアスの傾向があり、エラーにつながりやすいです。パターン認識は、セラピストの知識・経験値に左右されるため、初学者が行うには難しい方法です。

 

仮説演繹法は、仮説を起点とした推論方法です。限られた患者情報や主訴から、複数の疾患・病態を仮説し、主観的評価(問診)や客観的評価(身体評価)から情報を収集しながら、仮説を検証していきます。エラーになるリスクは減りますが、時間がかかるという欠点があります。

 

右膝の痛みを訴える患者を例にパターン認識を考えてみましょう。

高齢者、受傷機転がなく、徐々に痛くなっています。主訴は痛み、部位は片側、限局しており単関節のようです。運動習慣はなく、高血圧や糖尿病があります。

 

この情報を基にパターン認識で考えると、疾患名・病態は何が考えられるでしょうか。

 

膝関節の疾患・病態が疑われますが、変形性膝関節症が最初に想起されるのではないでしょうか。O脚が確認できたら、より変形性膝関節症を想起すると思います。

 

右膝の痛みを訴える患者を例に仮説演繹法を考えてみましょう。

中高年、受傷機転がなく、徐々に痛くなっています。主訴は痛み、部位は片側、限局しており単関節のようです。ここまでは一緒ですね。運動習慣はテニスを週2日、健康状態も問題ありません。

 

この情報を基にパターン認識で考えると、疾患名・病態は何が考えられるでしょうか。

 

この場合も、膝関節周囲の疾患・病態が疑われます。ただし、さまざまな疾患・病態が想起されるのではないでしょうか。

 

腸脛靭帯炎、膝外側靭帯損傷、膝外側靭帯損傷、膝蓋大腿関節症などでしょうか。 

 

ここでは限定された情報です。疾患・病態を絞るために、主観的評価(問診)と客観的評価(身体評価)で、さらに情報を収集していきます。

  

代表的なクリニカルリーズニングの方法にはパターン認識と仮説演繹法がありますが、時間的な制約がある場合は、すべての患者に対して仮説演繹法を用いることは難しいと一般的に考えられています。

 

時間的な制約・・・整形外科クリニックで働く理学療法士の場合、1単位ベースか、2単位ベースか、という話になるのではないでしょうか。

 

私は、2単位の場合は仮説演繹法を用いて、1単位の場合はパターン認識を用いる傾向があります。難しい症例の場合は、1単位の時は無理に治療まで行わず、評価で終えることもあります。

 

エキスパートとノービス(初学者)の臨床推論の違いは何でしょうか。

 

エキスパートは状況に応じて、パターン認識と仮説演繹法を適宜使い分けることができます。

 

疾患スプリクト(疾患を簡単な文章で示した内容)が構築されているため、主観的評価(問診)の情報を整理した時点で、疾患・病態の想起ができます。仮説は1つではなく、複数の仮説を形成することがでます。仮説を肯定また否定するための情報を収集します。 

 

初学者の場合、仮説が1つしか形成できないことがあり、その場合、1つの仮説を立証するために情報を収集し、誤った臨床意思決定を行うことがあるので注意が必要です。

 

エキスパートは難しい症例と判断した場合、パターン認識や仮説演繹法ではなく、帰納的推論を選択します。さまざまな患者情報(問診、身体評価、画像検査など)を収集し、問題点をリストアップした後に、臨床意思決定を行います。

 

まとめ

今回は、パターン認識と仮説演繹法、エキスパートのクリニカルリーズニング(臨床推論)について説明しました。

 

次回は、共同的臨床推論モデルとセラピストの最初のステップ「情報の認知・解釈」について説明していきたいと思います。

次回に続く。 

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