主観的評価にて神経障害が疑われたら、客観的評価では神経学的検査(感覚検査・筋力検査・腱反射)を実施します。
例えば、「頸部痛と母指の痺れがある」という情報を収集していたら、C6神経根の障害の可能性を考え、神経学的テストを実施します。
この図では、神経学的検査は整形外科徒手検査法の後に示していますが、臨機応変に検査の順番は調整します。
臨床では、先に神経学的検査を実施することもあります。例えば、1単位(20分)という時間的な制約がある場合、主観的評価(問診)を終えた時点で圧迫性神経障害(例:椎間板ヘルニア)が強く疑われたら先に神経学的検査を実施し障害レベルを特定し、椎間孔拡大のための関節モビライゼーションを実施する、といった感じです。
神経学的検査
神経学的検査が必要な理由としては、疾患・病態の特定、効果判定などですが、圧迫性神経根障害の場合は分節レベルが特定できればその分節に対する徒手介入があります。
神経根の障害が疑われたら、筋力テスト、感覚テスト、反射テストを実施し、どのレベルの神経根が障害されているか判断します。筋力・感覚(触覚・痛覚)・反射テストの結果を総合的に判断して、神経根の障害があるかどうか、障害されている分節レベルを考えます。
[st-mybox title="注意ポイント" fontawesome="fa-exclamation-circle" color="#ef5350" bordercolor="#ef9a9a" bgcolor="#ffebee" borderwidth="2" borderradius="5" titleweight="bold" fontsize="" myclass="st-mybox-class" margin="25px 0 25px 0"]
頚椎椎間板ヘルニアの患者に対して画像検査と Spurling's test などの整形外科徒手検査法しか実施しない医師もいます。神経学的テストの結果が記録されていない場合、患者に「◯◯はされましたか?」と確認して、実施していない場合はセラピストが分節レベルの評価をする必要があります。
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感覚検査
表在感覚の触覚と痛覚を評価します。
正常部位を基準として、デルマトームに応じた部位の感覚低下を評価します。
- C4 鎖骨下
- C5 肩外側
- C6 母指球
- C7 中指
- C8 小指球
- T1 前腕尺側
デルマトームはオーバラップ、個体差があるため、デルマトームだけで障害部位を判断しないように注意します。
感覚低下の場合、健側を10として患側はいくつか、数値化すると効果判定に役立ちます。過敏になっている場合、10以上の数字を言う場合があります。口頭指示の例:「目を閉じてください。ここ(正常部位)を10とした場合、ここ(患側)は数字でいうとどのくらいですか?」
[st-mybox title="参考" fontawesome="fa-file-text-o" color="#757575" bordercolor="" bgcolor="#fafafa" borderwidth="0" borderradius="5" titleweight="bold" fontsize="" myclass="st-mybox-class" margin="25px 0 25px 0"]
- しびれの訴えに対しては、運動麻痺、感覚の量的変化(鈍麻や消失)、異常感覚や痛覚過敏などの質的変化なのか問診が重要である。感覚低下の場合、触覚なのか、痛覚なのか、その両方かを明らかにする(渥美 2006;服部 2018)。
- しびれのある部位の検査は、触覚検査が他の検査よりも捉えやすいため重要である(福武 2017;神経症状の診かた・考えかた 第2版)。
- 温痛覚のみ障害をきたす疾患もあるので、触覚、温度覚、 痛覚のそれぞれについて確認が必要である(山下 2012)。
- 表在感覚の検査では、痛覚、温度覚に重点を置くことが多いが、感覚低下の場合は触覚も重要である。障害部位の特定には、主に爪楊枝を用いた痛覚検査で判定している(三井 2018)。
- 脊髄や神経根の病変は、まず触覚の脱失が起こり、つぎに痛覚の脱失が起こる。一方、神経根損傷の回復は、痛覚、触覚の順に回復する(津山 2005;整形外科医のための神経学図節)。
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触覚
- 閉眼を指示
- 正常部位を指またはティッシュペーパーなどで触れる。
- 患側を触れ、感じ方の違い、左右差を評価する。
痛覚
- 閉眼を指示
- 正常部位を、つまようじでつつく。
- 患側をつつき、感じ方の違い、左右差、痛みの程度を確認する。
[st-mybox title="参考" fontawesome="fa-file-text-o" color="#757575" bordercolor="" bgcolor="#fafafa" borderwidth="0" borderradius="5" titleweight="bold" fontsize="" myclass="st-mybox-class" margin="25px 0 25px 0"]
- つつき方に左右差がでないように、利き手のみを使う方が無難な場合もある(三井 2018)。
- 痛覚過敏の場合は正常部位から障害部位へ、鈍麻の場合は障害部位から正常部位に向かうと境界を決めやすい(北川 2001)。
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筋力検査
圧迫性神経障害の場合、マイオトーム(神経根に支配される筋群)に応じた筋力低下が起こります。
- C4 肩甲骨挙上
- C5 肩外転
- C6 肘屈曲・手伸展
- C7 肘伸展
- C8 母指伸展
- T1 小指外転
筋は1つ以上の神経根に支配されているため、脊髄神経の障害があっても麻痺にはならず筋力低下が起こります。一方、脊髄神経から分枝した神経の障害は筋の麻痺が起こります。
筋力検査は break test(等尺性収縮) を実施します。5秒間の抵抗を加えて検査肢位を保持できるかどうか判断します。
腱反射
腱反射は筋の伸張反射に由来する反射で、腱を叩打し誘発します。腱が叩かれ筋が素早くストレッチされると、刺激が骨格筋の中にある受容器の筋紡錘に伝わり、Ia線維を介して脊髄前角細胞に情報が伝わり、次にα運動神経に伝わって筋が収縮します。腱にはそれぞれ反射弓があり、腱と反射弓を覚える必要があります(例:膝蓋腱 L3-L4)。
反射弓とは、反射の神経伝達経路のことで、末梢感覚受容器からの求心性神経、1つ以上のシナプスを含む中枢内経路、そして効果器に至る遠心性経路からなります(医学大辞典第2版、医学大辞典)。
腱反射の減弱・消失は、反射弓の障害を意味します。例えば、 頸椎椎間板ヘルニアでC7神経根が圧迫されることで、上腕三頭筋の腱反射が減弱します。
- C5/6 上腕二頭筋
- C6 腕橈骨筋
- C7 上腕三頭筋
神経学的検査ですが、実施していない(実施できない)理学療法士もいます。臨床にでて打腱器を使っていない、リハビリ室にそもそも打腱器がない、あっても学生時代に使っていた打腱器・・・といったことも見聞きします。
腱反射の感度・特異度は実施者のスキルや疾患ごとに異なるため、腱反射の結果だけで疾患を判断しない、他の神経学的所見(筋力、感覚)や画像所見などを組み合わせて障害部位や疾患を推定することが大事です。
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頸髄症性脊髄症の場合、障害高位での上肢深部腱反射低下、障害高位以下での腱反射亢進、病的反射の出現、myelopathy hand などが兆候としてあります(頚椎症性脊髄症ガイドライン2020)
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下肢の腱反射、打腱器の種類など知りたい方はコチラをご覧ください。
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