腰痛に関連する重篤な疾患の1つに"骨折"があります。
骨折の種類もさまざまですが、高齢者の腰痛の場合、脊椎圧迫骨折に注意が必要です。
脊椎圧迫骨折が悪化し椎体が潰れて脊柱管に突出する場合、脊髄が圧迫されて両下肢の麻痺や膀胱直腸障害を引き起こします。
高齢者の今までとは異なる急性の腰背部痛の場合、脊椎圧迫骨折がないか判断することが重要となります。
圧迫骨折のRed flags としては以下のものがあります。
- 高齢
- 骨粗鬆症
- ステロイドの使用
- 重大な外傷
- 軽微な外傷 *高齢者の場合
- 打撲・擦過傷の存在
オーストラリアのガイドライン(Evidence-based Management of Acute Musculoskeletal Pain 2004)では、50歳以上、骨粗鬆症、副腎皮質ステロイドの使用の場合は軽微な外傷でも Red flags としています。
まずは、これらのRed flags を除外する必要がありますが、
高齢の腰痛患者において、脊椎圧迫骨折のRed flags の確認では気をつけなければいけないことがいくつかあります。
骨粗鬆症がない・・・実は検査をしていない
主観的評価では受傷・発症機転を確認すると思いますが、高齢の腰痛患者に「わからない」「特にない」と言われて受傷機転がないから圧迫骨折でないな、とすぐに考えるのは危険です。
「骨粗鬆症はありますか?」という質問に対して「ありません」と答えた患者の中には、実際に検査をしていない、また、数年前に検査したという方が一定数います。
検査をしていない=あるか、ないか、わかりません。「ない」と言った高齢のしかも円背がある患者で、実は検査をしていないだけで本当は骨粗鬆症があった場合・・・胸椎のPA・・・怖いですね。
「ありません」と言われたら、「いつ、骨粗鬆用の検査はしましたか?」と聞くようにしています。
ただし、「ない」と言われたら、やみくもに「検査をした方がいいですよ」と勧めるのは注意が必要です。
脊椎圧迫骨折はX線検査で診断できない場合がある
脊椎圧迫骨折はX線検査で診断できない場合があります。
医師の文献でも毎度のように、注意喚起されています。
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脊椎圧迫骨折のX線による診断は決して容易ではなく単純X線で診断できない場合も多々ある。痛みの程度や圧痛、叩打痛の部位といった臨床所見とよく比較し、必要に応じてMRIなどの画像診断を行うべきである(岸本,2011)。 [/st-mybox]
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新鮮椎体骨折の X 線写真による評価は急性期には椎体 変形が軽度のことが多いので、椎体終板の断裂像や前壁の突出像などの軽微な変化に注意する。しかし、専門的な眼を養っても骨折を見逃すことは多々ある。重要なことは高齢者で転倒などの外傷を契機に発症した腰痛は、必ず圧迫骨折があると信じて診断に臨み、時間をおいてXp を再撮影し、椎体変形の程度を確認することが重要である。MRI は圧迫骨折初期より診断可能で骨折発生 2 週以内では Xp 撮影よりはるかに診断率は高い。Xp 撮影で診断が困難な場合でも、1 週間以上持続・悪化する体動時痛は MRI で確定診断を行うべきである(西田, 2016)。
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X線だけしかない施設、また、X線だけで身体評価をしない、初回の診察だけして経過を確認しない医師と働いている場合、理学療法士が自分自身で身体評価、また経過を確認する必要があります。
高齢の腰痛患者を担当した場合のポイント
高齢の腰痛患者を担当した場合、以下の3点を忘れないようにしたいです。
- 「骨粗鬆症はありますか?」の次は「骨粗鬆症の検査はしたことがありますか?」
- 受傷機転がなくても脊椎圧迫骨折の可能性はある
- X線では脊椎圧迫骨折を診断できない場合があるため、問診・身体評価と経過観察が必要
参考文献・関連する書籍
望月:閉経と骨粗鬆症, 臨床検査 vol.62 no.8, 2018
岸本・井樋:脊椎圧迫骨折, 診断と治療, vol.99. no.10, 2011
田中・大島: ステロイド使用患者における骨粗鬆症対策, medicine vo.45. no.3 2008
Langdon J et al.:Vertebral compression fractures – new clinical signs to aid diagnosis, 2010
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版