
マリガンコンセプト (Mulligan Concept )とは、1970年代にニュージーランドの理学療法士 Brian Mulligan が発展させた徒手療法の1つです。
マリガンコンセプトは、評価と治療が一体化しており、基本原則PILLに当てはまれば、時間も短く効果も高い治療方法の1つです。
マリガンコンセプトの歴史
Brian Mulligan は1954年に理学療法士のキャリアをスタートさせました。1950年代後半、マリガンは、Cyriax's approach のコースに参加し脊椎を学び、ヨーロッパで Kaltenborn を学んだ Paris や McKenzie から徒手療法を習いました。
そして、1970年代に、Kaltenborn の四肢のコースに参加し、四肢の関節モビライゼーションを学びました。1984年、Mulligan は最大の発見をしました。
その発見は患者の治療中でした。スポーツで指を損傷し浮腫、疼痛、可動域制限が残存していた患者に、当初は、超音波療法、牽引、内側滑り・外側滑りのモビライゼーションを実施していましたが、効果がありませんでした。
そこで、Mulligan は、内側滑りを行いながら患者に指の屈曲・伸展の自動運動を指示しました。すると、疼痛が消え可動域も改善しました。これが、Moblisation with Movement(MWM)の始まりです。
1986年に、マリガンコンセプトのコースが初めて開催され、1989年に著書”Manual Therapy NAGS, SNAGS, MWMS etc” が刊行されました。現在、英語版は第7版(日本語版は第5版)まで出版されています。
基本原則PILL
過去にはオーストラリアの理学療法士 Dr. Toby hall が日本に来てマリガンコンセプトのコースを開催してきましたが、2019年から、日本では理学療法士の赤坂先生、中山先生がマリガンティーチャーとしてマリガンコンセプトの講習会を開催しています(日本徒手理学療法学会)。
マリガンコンセプトには2つの基本原則があります。
1つが、PILL、もう1つがCROCKSです。
PILLとは、Pain free(疼痛なし)、Instant result(即時効果)、Long Lasting(持続する)の頭文字をとった略語です。
PILLに当てはまればマリガンコンセプトをする、当てはまらなければしない、とてもシンプルです。
Pain free(疼痛なし)
マリガンコンセプトのテクニックを用いている最中、疼痛はでてはいけません。
疼痛が出現した場合、マリガンコンセプトの適用ではありません。Mulligan teacherの1人の Mark Oliver(理学療法士)はコース内で、ROMも疼痛も変わらない場合は適用ではない、ROMは変化するが少しの疼痛がある場合は適用の場合もある、ROMが改善し疼痛もない場合は適用である、と述べていました(あくまでも私見、2014年の)。
個々の患者・クライアントに合わせた対応が必要ですね。
Instant result(即時効果)
マリガンコンセプトを行ったとき、即時効果がでる必要があります。
では、どのくらいを即時効果というのでしょうか?
書籍「Mobilisation with Movement The art and the science 」にいくつかの記載があります。
例えば、60°で疼痛が出現し160°以上は動かせない時、マリガンコンセプトのテクニック(以下、マリガン)を行った結果、120°で疼痛が出現した場合、Instant result と考えられる。
ROMが健側と比べ10%低下していて、マリガンを行った結果、左右差がなくなった場合、Instant result と考えられる。
また、ROMだけでなく、マリガンを行った結果、筋力が改善した場合も、Instant result と考えられる。
実は、日本で参加したマリガンコンセプトのコースでも、参加者から同様の質問がありました。
「膝関節屈曲120°がマリガンを行って125°になった場合は Instant result と考えられるのか?」という細かい 細部にこだわった質問もありました。
Instant result というのは、ROM だけでなく、疼痛、筋力、バランス、また、動作などを含めて考えなくてはいけません。
個人的には、マリガンは 運動時痛に対してとても効果的な徒手療法だと思います。運動時痛による可動域制限、運動時痛による筋力低下、運動時痛による不良動作、などですね。
Long lasting(持続効果)
マリガンテクニックを行って得た効果が持続する必要があります。
当たり前ですが、良くなったことが持続しなければ意味がありません。
その場で良くなっても次に戻っていたら、戻ってしまう原因を考える必要があります。
マリガンコンセプトの場合、治療効果を持続するためにホームエクササイズを重要視しています。
また、効果を持続させるためにテーピングも用います。
PILL 反応がない場合
PILL 反応がなかったら、マリガンの適用ではありません。
しかし、疼痛誘発=適用しない、ではありません。
マリガンコンセプトに慣れていないセラピストはまず自分のやり方を疑う必要があります。
加えている力、加えている力の方向、加えている力の位置などです。
これらを調整しても疼痛が出現している場合、PILL反応がない、と考えていいのではないでしょうか。
基本原則 CROCKS
マリガンコンセプトには基本となる原則が2つあります。1つはPILL、もう1つはCROCKSです。
Mulligan は、Mobilisation with movement(MWM)の成功には患者中心の治療、患者の協力が必要であるということを、CROCKS を用いて表現しました。
CROCKS は、以下の単語の頭文字をとったものです。
C Contraindications
R Repetitions
O Over pressure
C Communication and cooperation
K Knowledge
S Sustain, skill, sensibility and subtle
C:Contraindications 禁忌
徒手療法の禁忌です。
明らかな禁忌として、脊椎の悪性疾患、馬尾障害・膀胱直腸障害、脊髄障害、関節リウマチによる脊椎の靭帯の壊死、炎症、感染による関節炎などがあります。
注意が必要な場合として、神経学的テストの陽性所見、骨粗鬆症、過可動性の関節、滑り症などがあります。
徒手療法の禁忌に当てはまるものは、マリガンコンセプトも禁忌です。
R:Repetitions 繰り返す
マリガンコンセプトでは、繰り返すことが重要とされています。
繰り返すとは、回数とセット数です。
推奨される回数とセット数はテクニックによって異なります。
基本的に、脊椎は四肢よりも少ない回数とセット数、また、初回・最近の受傷・強い疼痛の場合なども少ない回数・セット数となります。
多い回数とセット数は、慢性のケースやテクニックにより改善を示す場合に用いられます。
Repetitionsの目安
脊椎の場合
初回 3回 1セット 2回目以降 6−10回 3-5セット
四肢の関節
初回 6回 3セット 2回目以降 6−10回 3-5セット
O:Overpressure オーバープレッシャー
即時効果、持続効果をだすためには、最終可動域からのオーバープレッシャーが必要です。
疼痛なしでオーバープレッシャーが加えられた場合、改善が認められるでしょう。
オーバープレッシャーはセラピストまたは患者自身によって行われます。
C:Communication コミュニケーション
安全かつ効果的にMWMを実施するためには、患者とのコミュニケーションが必要です。
「痛みや何か症状がでたらすぐ教えてください」と伝えて、MWMを実施します。
また、患者はMWMの方法、効果を理解し、治療に参加、ホームエクササイズを実践する必要があります。
何らかの理由で、患者が動作を正しく実施できない場合は、方法を工夫するかMWMを実施しないという判断をします。
K:Knowledge 知識
病態に関する知識、治療する関節面、バイオメカニクス、解剖学などの知識です。
また、関節モビライゼーションに関する基礎知識も必要だと思います。
S:Sustain 持続
MWMを行っている間は、力を加え続ける必要があります。
スタートポージションから開始して、スタートポジションに戻るまで、です。
S:Skill 技術
マニュアルハンドリング Manual handling です。
セラピスト自身の手を用いて、誘導、操作する技術が必要です。
S:Sensitivity 感受性
セラピストはどの方向に滑りを加えているのか、関節はどの方向に動いているのか、どう変化しているのか、自分自身の手を通して感じとる必要があります。
S:Subtle
MWMを行なっている間にわずかな痛みがでる場合、滑りの方向、加えている力の強さを微妙に変化させる必要があります。
わずかに変化させることで、痛みが消失することはよくあります。
また、最後のS として、”common Sense” というのも述べられています。セラピストは、適応、禁忌、コミュニケーション、協力、知識、証拠、スキルを合理化し、治療している個々の患者に応じて、推論的アプローチ(commone sense)をすることが必要です。
CROCKS、Sはいろいろ詰め込んでます。common sense にいたっては C じゃないか、と思ってしまいますが、CROCKSC になったら発音しづらいんでしょう。
さて、CROCKS に書いてあることは、他の徒手療法とも共通することが多いと思います。
SNAG
マリガンコンセプトのSNAGは、関節に対する疼痛軽減テストとして考えることもできると思います。
SNAG の略は、Sustained Natural Apophyseal Glide です。
意味はというと(by ライフサイエンス辞書にて)
- Sustained・・・持続、維持
- Natural ・・・自然
- Apophyseal ・・・骨端、骨突起の、apophyseal joint 椎間関節
- Glides ・・・滑り
SNAGとはわかりやすく言うと、関節に滑りの力を加えて自動運動をする治療技術です。
マリガンコンセプトでは、滑りの力を加えながら自動運動を行う治療技術のことをMWM(Mobilization With Movement)と呼びますが、脊椎ではSNAG と呼び名がかわります。
つまり、脊椎のMWMです。
SNAGは、頚椎、胸椎、腰椎において用いられます。
頚椎のSNAGは、下位頚椎(C3-7)に対しては、屈曲、伸展、側屈、回旋に用います。
SNAGは痛みのある場所から始めます。具体的には、正中に痛みがあるのか、片側に痛みがあるのか、です。
痛みの場所、制限方向によって、どこに滑りの力を加えるのか、がポイントになります。
基本的に、疼痛が片側であれば、疼痛部位(片側)に行い、効果がなければ、棘突起(正中)または 反対側の上位の椎弓板に行います。
分節レベル、滑りの方向、滑りの力は適時、調整です。
私は痛みの部位を指してもらい、片側であれば、まずそこにSNAGを行います。効果がなければ滑りの方向・力を調整、そして「痛みの部位はここですか?ここより上ですか?下ですか?」というように確認後、部位が違う場合は分節レベルを変えて再度、SNAGを行っています。
慣れていない時期は効果がでるのに時間がかかってしまいましたが、臨床を重ねていき時間が短縮できてきました。
マリガンコンセプトのコースは、日本では、中山先生、赤坂先生がコースを開催されています(日本徒手理学療法学会)。
以前は Dr. Toby hall が日本に来て、マリガンコンセプトの講習会を開催してきましたが、2019年から、日本では理学療法士の赤坂先生、中山先生がマリガンティーチャーとしてマリガンコンセプトの講習会を開催しています(日本徒手理学療法学会)。
Upper Quarter、Lower Quarter、Advance Corse & Certified Mulligan の3つがあります。
マリガンコンセプトにご興味のある方、正しい方法を学びたい方は、ご受講を検討ください。
参考文献・関連書籍など
- Brian R Mulligan:MANUAL THERAPY NAGS, SNAGS, MWMS etc, 6th, 2010
- Bill Vicenzino et al.:Mobilisation with Movement The art and the science , 2011
- Wayne Hing, Toby Hall, Brian Mulligan:The Mulligan Concept of Manual Therapy 2d, 2019


