SINSS モデルは、主観的評価(問診)において、患者の身体評価と治療プランを決定するために役立つ戦略ツールの1つで、臨床推論エラーを減らすことが期待できます。

整形外科領域の場では、SINSSはとても有用な考え方の1つだと思います。

Severity(重症度)、Irritability(過敏性)、Nature(性質)、Stage(段階)、Stability(安定性)の頭文字をとっています。

Severity

  • 患者の痛みの強さ
  • 日常生活動作(ADL)に対する痛みの影響
  • 痛みのコントロールのために服用している鎮痛薬の量と種類
  • 夜間痛の有無

Severity (重症度)は3段階、Minimal(mild) 、Moderate、Maximal(severe) に分けられます。1つの指標として患者が考える”痛みの強さ”がありますが、Petersonら(2021)は、0-4 の場合は MInimal (mild)、4- 7の場合はModeratae 、8-10 の場合は Maximal (severe)と述べています。

7、8は微妙なことがあります。VAS だと 75mm 以上は severe pain であるという報告もあります。臨床では、7、8と答えた場合は、痛み強いな、と思います。

Irritability

  • 悪化因子と緩和因子の大きさの比率
  • 症状を悪化させる活動の量と種類
  • 症状を和らげる活動の量と種類

Irritability(過敏性)ですが、どの程度の動作で痛みが誘発されたらHigh irritability なのか、という決まりはありません。

Peterson ら(2021)は、Minimal の定義として、

  • 悪化させる活動と緩和させる活動または安静の比が少なくとも2:1である
  • 症状が現れるまで、何度も繰り返される活動や、比較的活発な活動に耐えることができ、また、姿勢やポジションを長時間維持することができる
  • 症状が現れても、活動を止めたり、姿勢を変えたりすることで、すぐに軽快することがある。

と述べています。

主観的評価(問診)における Irritability の判断は、疼痛誘発動作の種類と量(反復回数や時間)、疼痛誘発後の消失時間などが参考になります。

例えば、上を見るとすぐに頚部が痛くなり腕も痛くなる、痛みは1〜2分続くといった場合、Irritability はHigh かな、と個人的には思います。

Nature

  • 患者が経験している特定の診断や状態
  • 痛みのタイプ
  • 患者自身に関する個々の特徴や要因
  • 患者が自分の状態にどのように対処しているか

Nature の内容は幅広いです。疾患や病態、痛みのタイプだけでなく、痛みに対する対処方法、レッドフラッグス、心理社会的要因なども含むようです。

この分類の中で、セラピストは、患者の状態が自分の範囲内であるかどうか、また、その状態が早急な対応や特別な配慮を必要とするかどうか(=診察)を認識できることが重要です。

Stage

病態のステージを正確に判断することは、その病態の性質と予後を理解するのに役立ちます。ここで述べられているのは、発症からの期間であって、急性痛・慢性痛の定義とは違うことに留意です。

  • 急性期:最近の発症、3週間未満
  • 亜急性期:3~6週間
  • 慢性期:6週間以上
  • 慢性疾患の急性期:患者が6週間以上経験している疾患の症状が最近増悪した場合
  • 慢性疾患の亜急性期:患者が6週間以上経験している疾患の症状の増悪の後期

症状の発症期間を把握することで、組織の治癒過程を理解することができます。受傷機転がある場合や外傷、手術後などは、組織の治癒を考慮したリハビリテーションの実施が必要となります。

Peterson ら(2021)は、症状が患者にとって初めてなのか、再発なのか見極めるのも重要であると述べています。私は、”経験”というカテゴリーで、評価用紙に組み入れています。初めての経験の場合、治療への不安がある方もいます。経験値がないので、評価・治療・予後の説明はよりわかりやすくするよう配慮しています。

Stability

時間の経過に伴う症状の進行。現在のエピソードまた長期のエピソードの場合もある。ベースラインの症状を確立し、それらの症状の変化を常に再評価することによって、病態の安定性を決定します。

  • 改善
  • 変わらない
  • 悪化
  • 変動

改善の場合は、痛みが良くなっている、痛みの頻度が減っている、痛みの場所が減っているなどが考えられます。また、できなかった動作や活動ができるようになった、薬を飲まなくても大丈夫になったことも改善を示しています。

改善については、介入によるものもありますが、介入効果だけでなく自己治癒力やプラセボなどもあることを考慮する必要があります。

治療歴がある場合は、他院で行われた治療が適切だったのか、何か不足しているものがあったのか、患者自身の治療参加はどうだったのか、について確認していきます。

Severity と Irritability の判断は重要

SINSS、全て重要ですが、身体評価(客観的評価)と介入の程度を決定するために、Severity (重症度)と Irritability (過敏性)の2つは特に重要だと思います。

Severity (重症度)と Irritability (過敏性)を考慮することで、どれだけの身体検査を行えるか、痛みを長く残させないで再現できるか、安全に身体評価を実施できるか、をセラピスが判断できるようになります。

VASやNRS でSeverity(痛みの強さ)を評価しないと、身体評価(客観的評価)をどこまでしていいかわかりません。また、客観的指標がないため、痛みの効果判定も「ある・なし」の判断になってしまいます。 

主観的評価(問診)において、Severity と Irritability の判断が不十分な場合、痛みが強い患者に対して、通常通りの身体評価を行い、症状を悪化させるといったことが起こります。

NRSで7、強度の低い動作でも痛みも残る場合、High Severity 、High irritability と考えられます。この場合、身体評価は制限されます。例えば、腰椎伸展が疼痛誘発動作と疑われる場合、自動運動テストでは、立位での伸展を行うのではなく、座位での骨盤前傾に伴う腰椎伸展を評価するといった工夫が必要になります。

疼痛誘発動作ではなく疼痛軽減動作を見つけることを優先する場合もあります。例えば、寝返りにて強い腰痛が誘発される場合、腰椎回旋動作が起きないような寝返りを指導して疼痛が誘発されないか評価します。寝返りで疼痛が誘発される場合、睡眠障害を引き起こすため、寝返りの指導は重要です。

一方、Low severity 、Low irritability の場合、身体評価は制限せずに疼痛誘発動作を行います。必要に応じてオーバープレッシャーも行います。他動運動テストでは、最終可動域まで持っていくことも可能です。痛みを再現して、力学的ストレスや機能障害因子を判断していきます。

自分が分かりやすいように情報を整理

SIN という考え方を以前、習いました。それはSINSSモデルにおける、Severity, Irritability, Nature です。Nature については、疾患・病態と習った記憶があります(資料を見直しても詳細は書かれておらず)。SINSSモデルのNature は広範囲です。私は、Nature に含まれるような、痛みのタイプ、レッド・イエローフラッグス、対処方法などは、別にカテゴリー分類しています。

情報のカテゴリー、分類方法はさまざまです。

患者の状態、病態、疾患を理解するために必要な情報な何か、どう整理したら自分は分かりやすいのかを考えて実践していくのが大切だと思います。

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