痛みの評価において、NRS(Numerical Rating Scale)やVAS (Visual Analogue Scale )といった痛みの強度だけでなく、痛みによって問題となっている身体機能、日常生活動作、活動の障害を評価するために、自己記入式質問票を用いることが推奨されています。

  

とはいうものの、あまり普及していない印象があります。

 

脊椎徒手療法研究所のコースに参加された方で使用されている方は少数です(コース受講後は使用されていると嬉しいのですが)。

 

使わない理由としては、学生の頃に質問票について教育を受けていない、実習でも使用しているのを見たことがない、就職した職場で使っていない、時間がない・・・などです。

 

また、どこで入手できるのか?という疑問があります。これについては最後に述べています。

 

痛みによる身体機能や活動の障害を評価する質問票の利点として、

  • 痛みによって障害されているADLや活動を評価できる
  • 重症度を把握できる(質問票による)
  • 効果判定ができる
  • 予後予測ができる(質問票による)

  

といったものがあります。

 

治療効果について検討する研究では必ずといっていいほど用いられていますが、「研究で使える」ではありません。

 

痛みが主訴の患者に対しては、主観的評価で「痛みによって日常生活で困っていることはありますか?」といった確認をしていますが、すべてを網羅していません。

 

主観的評価においてセラピストが聞き取れていない情報、聞き逃している情報をダブルチェックすることもできますね。

 

労災・交通事故の患者に対しては「症状固定」を検討する場合がありますので、質問票による客観的な数値があると有用です。

 

[st-midasibox title="症状固定とは?" fontawesome="fa-question-circle faa-ring animated" bordercolor="#03A9F4" color="#fff" bgcolor="#E1F5FE" borderwidth="" borderradius="5" titleweight="bold" myclass=""]

  • 労災・自賠責において、通常の治療法を行なっても効果が期待できない状態を症状固定という。症状固定になって後遺障害認定が受けられる。
  • 後遺障害とは、交通事故が原因によって障害が残る、労働力の喪失を伴うなどの要件を満たした場合に認定される。後遺障害の等級は1~14級、1級が最も重い。
  • 症状固定になった場合、医師が後遺障害診断書を作成する。自賠責の場合、労災よりも詳細な記載が必要となる。
    (三上2017

[/st-midasibox]

 

さて、痛みによる身体機能や活動の障害を評価する質問票ですが、部位によっていろいろなものがあります。

 

腰痛では、Oswestry Disability Index(ODI)、Roland Morris Disability Questionnaire(RDQ)などがあります。

 

今回、頸部痛でよく使われる Neck Disability Index について紹介したいと思います。

 

Neck Disability Index (NDI)

Neck Disability Index(以下、NDI)は、急性また慢性の頸部痛に使用することができます。

 

1996年 Vernon が Oswestry Low Back Pain Disability Index を参考にして開発しました。

 

全部で、10項目になります。

  1. 痛みの強さ:Pain intensity
  2. 身の回りのこと(洗顔や着替えなど): Personal Care(Washing, Dressing, etc.)
  3. 物の持ち上げ:Lifting
  4. 読書:Reading
  5. 頭痛:Headaches 
  6. 集中:Concentration
  7. 仕事:Work 
  8. 運転:Driving
  9. 睡眠:Sleeping
  10. レクリエーション:Recreation

 

各項目 0~5点、合計50点満点になります。

 

点数またはパーセンテージにて機能障害度を判断します。

 

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点数とパーセンテージの両方をスコアにしておいた方がいいです。理由はというとは、外傷性頸部症候群の場合、初回評価時に「運転はしていない」が、2回目に再評価したときに「運転を再開している」場合があります。分母、総得点が変わります。運転していない理由は痛みの場合もあれば、車が故障・廃車になっている場合もあります。

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スコアの例ですが、例えば、10の質問に答えて16点だった場合、16/50 = 32% になります。

 

9の質問に答えて16点だった場合、16/45 = 35.5%になります。運転について無解答の場合は、記録例として「16/45(35.5%) 運転 回答なし」といった感じで記録しています。

 

Minimal Clinically Important Difference(MCID:臨床的に有益と判定可能な最小変化量)は、5点または10%とされています。

   

オーストラリアの急性の外傷性頸部症候群のガイドラインでは、評価および改善の指標としてNDIを用いています。

 

同ガイドラインでは「初回評価でVAS 5/10以上、NDI 15/50以上(=30%以上)は、予後が良くない。」「適切なマネジメントが行われていれば、40%のケースは6週で改善を示し(VAS 3/10以下、NDI 8/50以下(=16%以下))、12週で完全回復、理学療法終了となる。」と述べています。

 

日本語版NDI は2つある

  

日本語版の質問票を用いるにあたって、日本語版の妥当性が報告されている質問票を用いる必要があります。

 

自分で翻訳したものを使用するのはよくありません。その翻訳で同じように評価ができるかどうか不明だからです。

 

日本語版NDI ですが、妥当性が報告されているものは2つあります。

 

そして、それらとは別に書籍で紹介されていた日本語版NDI があります。

 

過去に、日本語版NDIを使用しようと考えていた時になかなか見つからず、唯一、私が見つけられたのが松原・沖田・森岡先生らの著書「ペインリリハビリテーション, 三輪書店, 2011」の中で紹介されているもので、引用先として「遠藤:むち打ち損傷ハンドブック―頸椎捻挫から脳脊髄液減少症まで, 2008」となっていました。

 

以前は、それをそのまま使用していたのですが、

 

2012年に理学療法士のNakamaru 先生が日本語版Neck Disability Indexの異文化適応性,信頼性,妥当性について、2013年に医師のTakeshita 先生が日本語版Neck Disability Indexの妥当性,信頼性,反応性について、それぞれ別の雑誌に報告しました。

 

3つの内容をみると、文章が微妙に違います。Takeshita 先生は、日本語版NDI について痛みバージョンと痛みとしびれバーションを報告しています。

 

さて、話を戻し、松原・沖田・森岡先生らの著書「ペインリリハビリテーション, 三輪書店, 2011」の中で紹介されていた日本版NDI(引用元:遠藤:むち打ち損傷ハンドブック―頸椎捻挫から脳脊髄液減少症まで, 2008」については調べてみました妥当性が検討および報告されているのか不明でした。

 

最新版の「むち打ち損傷ハンドブック 第3版: 頸椎捻挫,脳脊髄液減少症から慢性疼痛の治療 , 2018」を確認したところ、日本語版NDI は書かれていませんでした。

 

そして、沖田・松原先生の「ペインリハビリテーション入門, 2019」では日本語版NDIについては、Takeshita 先生の日本語版NDI を紹介していました。

 

これらを踏まえると、日本語版の妥当性が報告されている質問票を使用するべきなんですよね。 

 

私自身も知識不足のため、書籍で紹介されているものをそのまま使用していました。これは反省です。自分自身でダブルチェックをする必要がありますね。

 

日本語版NDIは2つ報告されているので、使用する場合は同じものを使用した方が良さそうです。

 

1回目は Nakamaru ver. 、2回目は Takeshita ver. とならないように。

  

質問票は一度使ってみると良し悪しがわかる 

 

質問票は1度使ってみないと良し悪しがわかりません。

  

質問票の難しい点として、誰に、いつ、どこで、使用するのかというのがあります。

 

ちなみに、私は全患者に実施しているかといったら実施していません。 

  

使用する場合は、リハビリ室で主観的評価を終えた時点で質問票を手渡し、回答している間に主観的評価の内容をカルテに記録しています。

 

リハビリ前後に受付などで記入してもらう方法もありますが、記入漏れがある(受付スタッフは忙しくて確認できない)、1回目に記入したところを2回目は記入していない、わからないところを受付に聞くことで受付が多忙になる、といったことがありますので、誰が回収して確認するのか決めた方が良さそうです。

 

質問票はどこで入手する?

 

冒頭でも述べましたが、質問票を使ってみたいと思ってもどこで手に入るの? という壁が立ちはだかります。

 

英語版の場合はすぐ手に入ります。

 

「Neck Disability Index pdf」といれれば、たくさんでてきます。また、質問票を配布しているサイトもあります。

 

ただし、誰が配布しているのか(政府?団体?個人?etc.)、また、文章が同じかどうかは確認する必要があります。

 

例えば、以下のサイトでも入手可能ですが、URLをみてみると gov.auとあります。

gov は goverment(政府)、au は australia(オーストラリア)の略なので、オーストラリアの政府が発行しているものと推測できます。

https://www.tac.vic.gov.au/providers/type/acupuncturist/achieving-outcomes/outcome-measures 

 

日本語版は、「日本語版○○ pdf」「〇〇 Japanease 」としてグーグル検索、Jstage 検索、PubMed 検索などして入手するか、書籍で紹介されているものを使用するか、になると思います。

 

ちなみに、書籍では「ペインリハビリテーション入門」にいろいろ紹介されています。

 

日本語版の質問票、もっと簡単に手に入らないでしょうかねぇ、簡単に手に入れば普及しそうな気がするんですけどね。

 

 

日本理学療法士協会が会員向けに作ってくれたら、会員になるメリットが1つ増えそうなんですが・・・ 

 

参考文献・関連書籍

Clinimetrics: Neck Disability Index

三上2017_交通事故後の慢性疼痛患者の治療期間について教えてください—pitfallに陥らないための保険,労災,後遺障害についての基本的知識

Nkamaru K et al. 2012: Crosscultural Adaptation, Reliability, and Validity of the Japanese Version of the Neck Disability Index

Takeshita K et al. 2013: Validity, reliability and responsiveness of the Japanese version of the Neck Disability Index

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