腰痛に関連する重篤な疾患の1つに馬尾症候群があります。
馬尾症候群は、L1/2より下位にある馬尾が圧迫されることで起こります。
原因として多いのは、正中の腰椎椎間板ヘルニアですが、脊柱管狭窄などでも起こります。
Cauda Equina Syndrome Video(外部リンク:英語字幕が下にあります)
馬尾症候群のレッドフラッグスには、
- 膀胱直腸障害:尿閉、便失禁
- 広範囲にわたる下肢の神経症状
- 肛門周囲の麻痺・感覚異常(サドル麻痺)
- 異常歩行
- 肛門周囲の痺れ
- 肛門括約筋のゆるみ
- 性機能の消失
などがあります。
Greenhalgh et al(2018)は、馬尾症候群について以下の5つを紹介しています。
- 両側の神経性の坐骨神経痛:腰背部の痛み、片側または両側の下肢痛を伴うことがある。
- 会陰部感覚の低下:会陰部、サドル周囲の感覚低下は最もよく報告される症状の1つである。
- 無痛生尿閉につながる膀胱機能の変化:膀胱機能障害は、頻尿、排尿困難、尿流変化、尿失禁、尿閉などの症状で、最も多く報告されている。
- 門緊張の喪失-肛門緊張の喪失または低下は、患者が腸機能障害を報告した場合に明らかになることがある。
- 腸の機能障害には、便失禁、排便のコントロール不能、および/または腸が満杯になったことを感じることができず、その結果溢れることがある。
- 性機能の消失:患者とセラピストの双方が困惑する可能性があるにもかかわらず、患者と話し合う必要がある健康とウェルビーイングの重要な側面である。
性機能について言及されていますが、書籍などでは性機能については言及されていない場合があり、注意が必要です。
馬尾症候群は緊急手術が必要
馬尾症候群を呈する椎間板ヘルニアの場合、24時間以内の緊急の除圧手術が必要です(文献によっては48時間と書かれている場合もあります)。
なぜなら、時間が経過すると、膀胱直腸障害などの機能障害が残存してしまうからです。
日本の腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン(第2版)では「腰椎椎間板ヘルニアに伴う重症の馬尾症候群では,早期に手術を行うことが望ましい(推奨:Grade A)」としていました。
解説には、「腰椎椎間板ヘルニアに伴う重症の馬尾症候群では,可及的すみやかに手術を行うことが望まれるが、海外の文献上も馬尾障害に対する手術のタイミングに関しては一定の見解が得られておらず、わが国の医療の現状においても夜間や週末に緊急検査や手術が行える施設は限られており、それぞれの医療現場の置かれた環境のなかで最良の方法を選択すべきであろう。」
とあり、すぐに手術ができないことも十分ありえるということです。
猪俣ら(2011)の症例報告では、馬尾症候群を呈した腰椎椎間板ヘルニア5症例(27歳〜47歳)に対して、緊急手術を行った結果、排尿は改善したが排便時の感覚鈍麻が残存する症例を3例認めた、と報告しています。
”膀胱直腸障害出現から 手術までの期間は2日以内が 2例、3日以降が3例であり、全例当科初診後 24時間以内に手術を施行されていた”
とあり、患者自身が受診するまでに時間がかかる場合もあるとのことです。
UKのChartered society of physiotherapy 作成の動画では、馬尾症候群について理学療法士、患者が答えています。
私は、椎間板ヘルニアの患者を担当した場合、馬尾症候群のRed flags を確認し、必要に応じて馬尾症候群について説明しています。
しかし、馬尾症候群に関する質問や説明はとても sensitive なので工夫する必要があります。特に性機能の消失については聞きづらいことがあります。
UKのChartered society of physiotherapyは、馬尾症候群の説明する用紙を用意してそれを基に説明すると良いと提案しています(https://www.macpweb.org/learning-resources/cauda-equina-information-cards.aspx)。
また、患者に対しては症状が記載されたカードを患者に渡すことを勧めています。UKの理学療法士協会のHPで掲載されており30ヶ国に翻訳されていますが、まだ、日本語版はないようです。
馬尾症候群の身体評価については、神経学的テスト、直腸診、超音波、MRIなどがあります。
セラピストができるとしたら問診・神経学的テストでしょうか。
薬物療法をしている場合は、薬による膀胱機能の変化なのか判断する必要もあるので、多面的な評価が必要ですね。