
筋骨格系の理学療法における「心理社会的要因の評価」は、どこまで実践されているのでしょうか?
近年、筋骨格系における疼痛の評価・治療において、心理社会的要因(不安、恐怖回避、ストレス、社会的背景など)の重要性が繰り返し指摘されています。
では、実際の臨床現場では、理学療法士はそれらをどのように評価しているのでしょうか。
英国の筋骨格系の理学療法士を対象に、心理社会的要因の評価の実態を調査した横断研究が発表されました。
Psychosocial assessment in musculoskeletal care: A survey of UK physiotherapists
Michael Henning, Shea Palmer, Nicola Walsh
Musculoskeletal Science & Practice
https://www.mskscienceandpractice.com/article/S2468-7812(25)00233-4/fulltext
研究の概要
本研究では、英国で働く筋骨格系理学療法士373名を対象に、オンラインアンケート調査が行われました。
調査内容は以下のような点です。
- 心理社会的要因をどの程度重要と考えているか
- 実際にどのような方法で評価しているか
- 標準化された評価ツールの使用状況
- 評価に対する自信
- 実践上の障壁と促進要因
心理社会的要因の重要性
多くの理学療法士が、心理社会的要因は重要と考えていました(96%が very または extremely important と回答)。
心理社会的要因は治療アウトカムに大きく影響すると認識していました。この点は、現在の生物心理社会モデルの考え方と一致しています。
実際の評価方法
一方で実際の評価方法を見ると、
- 臨床経験に基づく印象・判断
- 直接的な質問(明示的な質問)を用いている
といった、非公式的な評価が中心であり、標準化された心理社会的評価ツールの使用は少数(7.2%)にとどまっていました。
「重要だとは思っているが、体系的には評価できていない」という実態が浮き彫りになっています。
評価に対する自信
多くの理学療法士は心理社会的評価に「ある程度の自信」は持っているものの、評価ツールの選択や解釈に関しては自信が十分とは言えないという結果でした。
興味深い点として、心理社会的要因の評価に対する自信は臨床経験年数とはほとんど関連がない、一方で評価ツールの使用経験とは正の関連が認められました。
つまり、「臨床経験がある=自信がある」わけではなく、評価ツールを使った経験そのものが自信につながっていることが示唆されます。
実施上の障壁と促進要因
心理社会的評価が十分に行われない理由として、特に多かったのは「時間的制約」と「トレーニング・教育の不足」でした。
忙しい外来環境の中で、「どう聞けばいいのか分からない」「時間が足りない」という現場のリアルが反映されています。
一方、評価を促進する要因としては、「適切な教育・トレーニングへのアクセス」「簡便で使いやすい評価ツール」「電子カルテなどへの統合」「患者利益を示すエビデンス」が挙げられていました。
感想
心理社会的要因の重要性は理解されているが、評価は「個人の感覚」に依存していると言う結果は、多くの臨床家が感じているのではないでしょうか。
私自身、心理社会的要因の重要性を知った当時は、一通りのスクリーニングツールを準備し、とりあえず全員に評価をしていました。
現在は、主観的評価(問診)の中で、心理社会的要因が疑われたら、直接的な質問をして、心理社会的要因が痛み・症状に関与してるかどうかを確認し、関与していると判断したら自己記入式質問用紙を用いて評価しています。
実施を妨げる理由として「時間的制約」が挙げられていましたが、確かに心理社会的要因の評価には時間はかかります。
ファイルから質問紙を選んで準備し、回答してもらったら内容を吟味して結果のスコアをつけて、電子カルテに記録して、紙は保管(スキャンなど)・・・タブレッドで評価し、自動的に電子カルテにデータ保存できたら楽ですよね。
ただ、時間的制約があるからといって、心理社会的要因の評価を行わないという選択にはならないとも感じています。
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症状が改善しない患者さんに対して「あの人はメンタルだから」と言ってしまうことがあります。私自身もそういう経験があります。でも、心理社会的要因の評価なしに「あの人はメンタルだから」というのは患者さんに失礼だと今では思っています。
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実際の臨床では、痛みや症状の再現性がある場合、患者さんではなくセラピスト自身の知識・技術の不足や不十分な評価が原因のことの方が多いと感じています。
心理社会的要因が痛みの原因の1つになっていると判断したら、やはり評価は必要です。
私自身は心理社会的要因の専門家ではないからこそ、主観的評価(問診)だけではなく自己記入式質問用紙も使って判断したいと考えています。
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