
整形外科徒手検査法は身体評価の一つで、診断、病態の判断、症状の原因の推測に用いられます。
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(日本の)理学療法士の場合、診断ではなく、病態の判断、症状の原因の推測のために整形外科徒手検査法を用います。
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また、医師の身体検査が不十分(鑑別診断をしていない)、そもそも診断名と症状が合っていない場合(医師のレベルによります)、理学療法士が整形外科徒手検査法にて評価をすることもあるでしょう。
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整形外科徒手検査法は、主観的評価(問診)を行い、疾患・病態を想起した上で、実施する内容を計画します。
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主観的評価では「肩よりも下(先)に何か症状はありますか?」と確認することが大切です。
上肢症状がある場合は、部位、症状(痛み、感覚低下、痺れなど)、痛みの頻度・性質、複数の痛みの関連性などを問診にて評価し、神経障害性疼痛の可能性を考えます。
例えば、外傷・頭痛・眩暈なし、右頚部痛(Constant 常時痛、NRSは7,8)が主訴で、右上肢にビーンという疼痛があり、かつ2つの痛みが関連しており、右母指に痺れがある症例を考えてみましょう。
片側の頸部痛、片側の放散痛、C6領域の痺れ、ということから、頚椎の神経根障害が強く疑われます。これが、両側の症状の場合であれば頚髄症の可能性も考慮します。
ボディチャートだとこんな感じでしょうか。

症状の傾向を評価すると、より疾患・病態を想起しやすくなります。

私がここで考えることとして、右頸部痛は伸展・右回旋で増悪傾向にあり屈曲は大丈夫、伸展では上肢の放散痛も出現する、椎間孔が狭くなることで症状を誘発している可能性が高い。
母指の痺れということでC6領域が疑われる、神経学的テストで触覚、痛覚を確認しよう。
Patient specific functional scale(PSFS)は、歯磨き、パソコン、車の運転が大変とのこと、仕事への影響はどうだろうか?
痛みは常時あり、Severity(重症度)とIrritability(過敏性)が高いので、身体評価は制限しよう。
検査の順番は…、最初に整形外科テストで疼痛軽減させるテスト(Shoulder abduction test, Distraction test)をまず行い、次に、神経学的テスト(触覚・痛覚・筋力・反射)を行おう。自動運動テストでは最後に伸展を評価、最終域までは攻めないようにしようかな。Spurling test は必要かな?圧迫しなくても症状が誘発するかもしれない、と考えます。
ちなみに、医師の診断が先にある場合、診断名、身体検査、画像検査、投薬なども臨床推論に役立てます。リリカが処方されている場合は、医師は神経障害性疼痛と判断しています。
頚椎の整形外科徒手検査法
整形外科徒手検査法は身体評価の1つで、感度・特異度を考慮し、疾患・病態を特定および除外するために実施されます。
優れた医師は、最も可能性が高い診断以外の可能性を強制的に検討するために鑑別診断を行っています。アンカリング、早期診断閉鎖、確証バイアスといった認知バイアスを軽減させることを目的としています。
医師がいる病院・クリニックにおいては、整形外科徒手検査法の知識・技術は医師との共通言語になります。わからない検査などがあったら、医師に聞く、見学するといいですね。

頸椎に関連する疾患・病態の把握のためには、
- 神経根障害
- 頚椎症性脊髄症
- 胸郭出口症候群
- 上肢の末梢神経障害:手根管症候群、肘部管症候群など
- 血管病変:椎骨動脈テストなど
- 上位頚椎の不安定性テスト
などの整形外科徒手検査法の知識・技術が臨床では必要だと思います。
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さまざまな整形外科検査法の書籍がありますが、書籍によって紹介している整形外科検査法は違います。共通しているのは、神経学的症状に対する検査、頚椎の不安定性に対する検査、頸椎症性脊髄症の検査、血管兆候に対する検査(椎骨動脈テストなど)です。ちなみに、私のおすすめの書籍は、Magee の Orthopaedic physical assessment です。
整形外科徒手検査法を勉強したいときは、Youtube もおすすめです。
複数の動画を視聴するととてもいい勉強になります。英語の動画の場合、リスニングの練習にもなりますね。
頚椎の神経根障害の代表的な整形外科徒手検査法には、Spurling test , Shoulder abduction test, Distraction test などがあります。他に、Jackson test も有名です。
では、早速、Youtube動画を見てみましょう。
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Spourling test
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Spurling tsetは、疼痛誘発です。さまざまな方法がありますが、この動画では、伸展、側屈、圧迫の方法を紹介しています。
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Shoulder abduction test
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このテストは、現時点で症状がある人に対して実施する疼痛軽減テストです。過去には、このポーズで待っている患者さんがいました。このポジションだと楽なんだよね、とおっしゃっていました。
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Cervical distraction test
このテストは、現時点で症状がある人に対して実施する疼痛軽減テストです。この動画では背臥位の方法を紹介していますが、座位の方法もあります。座位の場合は、上肢を外転位にすることで、更に疼痛・症状が軽減するかもしれません。疼痛が増悪する場合は、筋スパズム、靱帯損傷、硬膜の Irritability が示唆されます。
病態の把握と診断のダブルチェック
理学療法士は、主観的評価(問診)を行い、疾患・病態を想起した上で、実施する整形外科徒手検査法を計画します。
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整形外科徒手検査法を実施して、病態の把握、症状の原因の推測、診断のダブルチェックをします。
普段と違う症状がでた場合も、「診察にどうぞ」とすぐに案内するのではなく、理学療法士が初期評価した上で、医師に Reffer、 診察を勧めるようにすることで、理学療法士のレベルも上がるのではないでしょうか。