2単位ベースの整形外科クリニックの場合、理学療法士は年間200〜300名くらいの患者を担当します。
出会う患者は皆、性格、人柄、人間性が違います。
相性の良い人もいれば、中には苦手なタイプもいます。
たまに、対応困難な患者、いわゆる、モンスターペイシェントに遭遇することがあります。
モンスターペイシェントとは、医療従事者や医療機関に対して自己中心的で理不尽な要求、暴力や暴言など非常識な言動を繰り返す患者(あるいはその親族や友人・知人等)を意味する和製英語です(WIkipedia)
モンスターペイシェント、一定数います。最初からモンスターもいれば、途中からモンスターになる場合もあります。
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今回、整形外科クリニックで管理職をしている理学療法士、田中さん(仮名)がモンスターペイシェント (以下 M)に遭遇した話を紹介したいと思います。
田中さんは整形外科クリニックで働く理学療法士、管理職として働いており、普段から患者のクレーム対応なども担っていた。最近は、呪術廻戦の漫画を読むのが好きらしい。
ある日、後輩PT 高橋さん(仮名)から相談を持ちかけられた。
「田中さん、先日、とんでもない患者が来ました。あなたは私の話を聞いてくれない、と何回も言うので、話を聞いたら40分経ってしまいました。そしたら、あなたは何もしてくれないと言ってきて・・・会話の間、睨みつけてきますし、舌打ち、ため息、も凄いです。紹介状も2つあるのですが、1つは謝罪文みたいになっているんですよね」
紹介状を確認してみたところ、接骨院からの紹介状と他院からの紹介状(MRI結果を含む)だった。
接骨院からの紹介状には「私の対応が至らないばかりに、Mさんがお怒りになってしまい申し訳ありません」と言った内容が書かれていた。
こんな紹介状、初めて見るな。
普段は、モンスターペイシェントや注意が必要な患者は科長である田中さんが担当しているが、Mは田中さんの休みの曜日の来院だったため、主任の高橋さんが担当することになった。
難しい患者を担当することも高橋さんの経験になるだろうと思い、田中さんはしばらく経過を見守ることにした。
しかし、問題は解決することはなく、むしろ、状況は悪化していった。
高橋さん「Mが来院する前の日、色々考えて眠れないんですよね。すごい憂鬱です。」
ある日のカンファレンス、受付スタッフからもMに対する言動について報告が相次いだ。
受付スタッフ
Mさんですが、会話中、睨みつける、舌打ちをします。受付で名前を呼んでも無視します。
先日、物を落として拾おうとすると「触らないで!」と怒鳴られました。
帰り際に「馬鹿にしてんじゃないわよ!」と叫ばれました。
高橋さんだけでなく、受付スタッフも、Mが来院する日はナーバスになっていった。
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受付スタッフは”患者の権利と義務”というPOPを作成して、院内掲示をし始めた。
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自己防衛、大事だ。
問題が起きた時は医師が対応するのでは?と思いますが、田中さんが勤務する整形外科クリニックの医師は「リハビリ患者はそっちで何とかしてくれ」という考え方だそうです。
クリニックの雰囲気が悪くなっていく中、朗報が舞い込んだ。田中さんの出勤日の変更があり、Mが来院するときに出勤できるようになったのだ。
田中さんは、Mの担当を変更することした。
後は任せてくれ。
そして、担当変更の初日、田中さんはMに初めて会った。
神経質な痩せ型タイプを予想していたが、肥満の中年だった。
田中さん「Mさん、こんにちは、今日から担当します田中です。調子はどうですか?」
M「チッ、どこのことを聞いてるのよ?」
田中さん「今、一番、お困りなことは何ですか?」
M「チッ、それは一つでいいってわけね。はぁ〜(ため息)あなたは、それ以外は聞かないってわけね」
田中さん「そういう意味ではありません。お話ししたいことを話してください。」
M「はぁ〜(ため息)、私が全部、話したら時間なくなるんでしょ。チッ、前の担当はそう言っていたわよ」
田中さん(これは、なかなか手強いな)
M「ベラベラ・・・・ベラベラ・・・はぁ〜(ため息)、チッ、あなた、私が言ったこと引き継ぎしてるの?私は言ったわよ」
田中さん「高橋からMさんのことは全て、引き継ぎをしています。過去のカルテ、紹介状も全て確認しています。」
M「私は足をひねって、それから膝が痛くなって、股関節も痛いのに、前の担当は股関節を見ない。前は労災で首を治療していたのに。話聞いてないの?チッ」
田中さん「(首を労災・・・初耳だ)そうですね、足をかばって膝、股関節が痛くなることはありますよね。では、足、膝、股関節も含めて全身を確認していきますね」
田中さんはリハビリを淡々と行い、次回の予約を取ることにした。
田中さん「Mさん、お疲れ様でした。次回のご予約はどうされますか?」
M「次回って、いつ来たらいいのよ。」
田中さん「Mさんのご都合で大丈夫ですよ」
M「は?都合って何よ。前の担当は計画書にリハビリの頻度が週1って書いてたのに、今は2週間に1回、それでいいの?」
田中さん「週1のリハビリでも大丈夫ですよ」
M「でも、って何よ。」
田中さん「では、週1でリハビリを行っていきましょう」
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M「チッ」
初回を終わった時点で田中さんは考えた。
舌打ち、ため息、睨む、これはけっこうあるな・・・高橋さんの言う通りだ。計画書まで読み込んでいる、こっちの言動には細心の注意をしないとダメだな。この手のタイプは下から行くとダメだ、はっきりと言ったほうがいい。
その後、田中さんはMの特徴をつかみ、毎回苦労しながらも、何とか対応していた。
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途中、無断キャンセルで来ない日もあり、Mに確認すると私は電話したの一点張り、しかし、スタッフは誰も知らない…なんなのか…
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そして、リハビリ開始から4ヶ月目になり、田中さんは考えた。
そろそろ150日期限について確認しないとな。Mの場合、150日期限のことを伝えるときに何か問題が起きそうだ、1ヶ月延長を打診して、特別な対応をしていることをアピールして乗り切ろう。
田中さん「Mさん、リハビリですが150日の期限があります。Mさんのリハビリは◯月◯日までですが、医師と相談の上、◯月末まで対応させて頂くことにしました。」
運動器リハビリテーションは150日の期限があることをMに伝えると、
M 、豹変!落ち着いたと思ったら、まさかの特急呪霊(※呪術廻戦)になった。
M「は?150日?前任は何にもしていないんだけど、その期間も何で含まれるのよ?」
田中さん「150日期限については私たちでは判断できません。」
M「ベラベラ・・・」
40分を過ぎても話が止まらず、田中さんはなんとかしてリハビリを終わらせた。
そして、次のリハビリ・・・
明らかに痛そうにしている。
M「前回、姿勢を修正した時に、私の肩甲骨を寄せたわよね。それからずっと痛くて、仕事も休んだのよ。それでリハビリ終了って言うの?」
田中さん「(んなわけないだろ、何を言っているんだ。)」
田中さんは身体評価を実施後、詐病と判断、これ以上のリハビリ継続はしない方がいいと結論づけ、領域展開(※呪術廻戦)をすることにした。
田中さん「Mさん、リハビリですが期限を持って終了とさせていただきます。」
M「は、◯月末って言ったじゃないの?」
田中さん「リハビリは信頼関係がないと成り立ちません。Mさんの非協力的な態度ではリハビリは継続できません。期限についてのご意見は厚生労働省にして下さい。」
M「⚪︎△×………..(支離滅裂)、ちょっと、何、その顔?話、聞きたくないの?」
田中さん「生まれてこの方40年、この顔ですけど」
中略
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M「あなた、〇〇って言ったの覚えてないの」
田中さん「記憶にございません。」
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M「あなた、そんな政治家みたいな発言していいわけ?」
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田中さん「申し訳ないですが、記憶にございません。お疲れ様でした、時間になりましたのでリハビリ終了となります。」
理学療法士だけでなく、受付スタッフへの暴言もあり、度々、カンファレンスで議題に上がっていたM、
院長から現場の判断に任せるということもあり、田中さんはリハビリ終了という決断を下した。
おしまい。
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田中さんの話はいかがでしたか。
対応が難しい患者を担当した場合、どうしたらいいのか考えさせられるお話でした。
セラピストの言葉尻を捕まえて言葉で攻撃してくる、理不尽な要求をしてくる場合、
傾聴ではなく、正論で対応することも大切ですね。
患者の言動については逐一、記録することも大切です。
また、セラピスト1人で対応するのではなく、チームで対応することも大切ですね。