主観的評価で必要な情報は以下になります。
- 診断・投薬
- 主訴
- 症状の傾向
- 現病歴・治療歴
- 活動・参加
- 心理社会的要因
- 仕事・生活習慣
- 健康状態・既往歴
- ゴール・期待
主訴とは、患者が最も重要視する問題(何とかして欲しい問題の訴え)です。
最も、ということですが、主訴が1つ以上の場合もあります。
患者の訴えは、そのままカルテに記録します。
基本的に経験を自由に話せる Open ended questions で主訴を確認しますが、時間的制約がある場合は Close で対応します。
問診例:
- 「◯◯ということですが、今日はどうされましたか?」
- 「◯◯ということですが、その後、調子はいかがですか?」
- 「◯◯ということですが、今、お困りのことは何ですか?」
- 「◯◯ということですが、詳しくお話をお聞かせください。」
- 「一通り、カルテを確認したのですが、〇〇さんのお身体の状態についてお話を伺ってもよろしいでしょうか」
整形外科クリニックで働く理学療法士の場合、「今日はどうされましかた?」は注意が必要です。なぜなら、先に医師の診察があるからです。「今日はどうされましたか」と聞くと、「カルテ見ていないの?_」と言う患者がたまにいるんですよね・・・。
話す前からイライラ、面倒くさそうな顔をしている患者は要注意です。「カルテ見てないの?」の対策として、「〇〇ということですが」または「カルテを確認しましたが」と一言入れると対策になります。
整形外科クリニックの場合、最も多い主訴は「痛み」です。
Smart KM ら(2012)は、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の症状として、専門家の意見を集約したDelphi study を報告しています。
侵害受容性疼痛の症状
- 機械的/解剖学的性質が増悪要因と軽減要因と明確に比例
- 外傷、病理学的プロセス、動き/姿勢の機能障害に伴う疼痛
- 受傷、機能障害の場所に限局した疼痛(体性関連痛あり/なし)
- 急激に改善または組織の治癒・回復時間に従って改善
- 鎮痛薬・NSAIDs に反応
- 動きに伴う間欠または鋭い痛み、または安静時の鈍痛、ズキズキ感
- 炎症症状(腫脹、発赤、熱感)に伴う痛み
- 最近、始まった疼痛
神経障害性疼痛の症状
- 疼痛の性質:焼ける、撃たれる、鋭い、うずく、電気の走る
- 神経損傷の病歴、病態または機械的損傷
- 神経学的所見(しびれ・感覚低下・筋力低下)を伴う疼痛
- デルマトームまたは末梢神経の皮膚分布の関連痛
- 鎮痛薬・NSAIDsより抗てんかん薬・抗うつ薬に反応する
- 強い疼痛と過敏性(簡単に誘発、持続する)
- 神経組織に負荷が加わる動作・姿勢で増悪
- 異常感覚(crawling, electrical, heaviness)を伴う疼痛
- 自発的に起こる疼痛、発作的な疼痛
痛みの評価では、
- 場所
- 関連痛・放散痛
- 痛み以外の症状
- 頻度
- 強さ(重症度)
- 性質
- 深さ
を確認していきます。
主訴(痛み・痺れ。異常感覚・筋力低下)は、ボディチャートに記録すると、整理しやすくなります。
ボディチャート
ボディチャートとは、見た通り、身体図です。側面もありますが、私は前面・後面のみ用いています。身体図に患者の症状を記録することで痛みの部位や関連がわかり、関連を整理しやすくなります。
ボディチャートは紙カルテまたは電子カルテでも用いられますが、紙カルテの方が記録しやすいです。
場所
痛みの場所は疾患・原因組織を示唆します。
痛みの場所から以下の点を考慮します。
- 片側 OR 両側
- 単関節 OR 多関節(一部位・多部位)
- デルマトーム OR 皮膚分節
- 特定部位(限局性病変の可能性) OR エリア( 関連痛の可能性)
- 疼痛部位が広範で非解剖学的 → 非器質的?
例えば、腰痛で下肢に痺れや感覚低下がある場合、片側または両側の症状かによって神経根か脊髄か原因組織が変わります。疾患の重症度(進行度)も、両側の方が高い可能性があります。痺れや感覚低下がデルマトームの領域の場合、より神経根が疑われるでしょう。
腰殿部痛で疼痛部位を指でさしてもらうテストとして One finger test が有名です。患者に、人差し指を用いて痛みの強い部分を指差すよう指示します。上後腸骨棘の周囲 2 cm 以内を指差せば陽性で、仙腸関節障害が疑われます。
問診例
- 「痛いところはどこですか?」
- 「痛いところを指させますか?」
- 「痛みは左・右ですか?」
- 「痛みは内側・外側ですか?」
関連痛・放散痛
痛みが複数ある場合、関連痛、放散痛、または別疾患の可能性を考えます。
関連痛とは、損傷部位から離れた遠隔部に発生する痛みで、原因は関節、筋、神経、内蔵などがあります。
脊椎の関節由来の関連痛の場合、どの分節が含まれるのか推測するのであって、どの構造が関連痛の原因かを特定するわけではないことに注意が必要です。疼痛範囲が広い場合や異常な疼痛パターンの場合、関連痛の有用性は低下します。
例えば、頚部痛における肩甲骨内側の痛みです。肩甲骨内側の痛みは C5/6やC6/7の関連痛で起こりえますが、椎間関節や椎間板などの構造までは特定はできません。
放散痛は、末梢神経などの圧迫によって起こる痛みです。放散痛の場合、痛みの性質が特徴的です。
問診例
- 「お尻よりも下に痛みはありますか?」
- 「腰が痛い時、脚も痛みますか?」
- 「痛みは肩よりも先にありますか?」
四肢に、問題なければ「✔︎」をつけます。図のボディチャートの場合、左下肢に症状はありますか?と確認して、なければ左下肢にチェックをつけます。
最初に チェックをつけることで「確認した」とはっきりさせることができます(まぁ、書かないことで何も問題なかったと考えることもできますが)。
数週間後に、チェックをつけたところに別の症状が出現した場合、症状の増悪または別疾患の出現などを考える必要があります。初回評価でどこに症状があったのか、という記録はとても重要ですね。
痛み以外の症状
痛み以外の随伴症状は、レッドフラッグとの関連もあるため、必ず確認します。
問診例
- 「痛み以外に何か症状はありますか?」
- 「他に何か症状はありますか?」
例えば、痺れ、異常感覚、筋力低下といった症状を訴える場合、神経障害が疑われます。血圧低下、頻脈、吐き気、嘔吐、発汗、顔面蒼白などの自律神経症状は内臓痛に伴うことが多いと言われています。
ちなみに、英語で、痺れは pin and needles 、感覚低下は numbness といいます。どちらも略語で P+N とか Numb と記録されることが多いです。以前は私も英語で記録していたのですが、患者の言葉をそのまま記録するようにしています。
日本語の表現はとても多く、「痺れ」「感覚低下」で括れないことがあります。患者によっては「薄皮一枚」という表現もあれば「ざわざわ」といった表現もあります。
頻度
Constant(持続)かIntermittent(間欠)を判断します。記録方法としては、略して、con または int と記載すると楽です。
「〇〇する時に痛い」と言われた場合、動作時の痛みのため Intermittent と判断することが多いです。
Constant(持続)は、持続する疼みで、炎症の可能性を示唆します。
Intermittent(間欠)は、持続的ではない痛みで、炎症の可能性は低くなります。Constant から Intermittent になる場合、改善を示します。
問診例
- 「安静時も痛みはありますか?」
- 「寝ている時も痛みはありますか?」
強さ(重症度)
痛みの強さを数値化することは大切です。
痛みの数値化は、重症度の把握、身体評価をどこまでするかの指標、効果判定に役立ちます。痛みの客観的指標がないと、効果判定が痛みがある、ないの二択になってしまうんですよね。
痛みの強さの評価は NRS や VASを用います。
- Numerical rating scale (NRS)
- 0 = 痛みがない
- 10 = 想像できる最大の痛み OR 経験した中で最も強い痛み
- 低い(minimal /mild)0-3(4) 、中程度(Moderate)(4) 5-7 、高い Maximal(severe)(7)8-10 - 痛みを評価する
- 複数ある痛みは比較する
- 疼痛誘発姿勢・動作の比較をしてもいいが、破局的思考がある場合は痛みの細かい評価は要注意
問診例
- 「痛みの強さですが、0がまったく痛みがない、10は救急車、痛みの強さを数字で表せますか? 7は薬が飲みたいです。」
痛みの強さをなかなか数値化できない場合、こちらから判断基準を提示するようにしています。7が薬を飲みたいとしたら?という問いかけをすることによって答えやすくなる方が多いです。
痛みの重症度(Severity )は3段階評価で考えます(段階の基準は色々あり)。7、8は微妙なことがあります。VAS だと 75mm 以上は severe pain であるという報告もあります。臨床では、7、8と答えた場合は、痛み強いな、と思います。
性質
痛みの性質は原因組織・病態を示唆します。患者の言葉をそのまま記録します。
例)
- 筋・靱帯・関節包:鈍い、うずく、かまれるような
- 神経・神経根:鋭い、ピーンと走る、焼けるような
- 血管:ズキズキ、脈打つ、散る、広がる
- 骨:深部、しつこい、鈍い
- 炎症・感染:熱がある
問診例
- 「どのような痛みか言葉で説明できますか?」
深さ
私は、痛みの深さについては聞かないこともあります。優先順位は一番低いです。痛みの深さは患者によっては答えられないことも多く、原因組織を推測することは難しいからです。答えられない場合は、Unclear と記載しています。
Smart KM ら(2012)の報告では、侵害需要性疼痛と神経障害性疼痛の症状では「深さ」については言及されていません。また、書籍、神経筋骨格系の検査と評価(ICOLA J PETTY 監訳 中山 孝, 医歯薬出版株式会社,2010)には、「痛みの深さは問題のある構造に関する手掛かりを与えてくれるが、誤解も伴う」と書かれていました。
「疼痛が深部に存在し、部位を特定できない(不明瞭な)場合、関連痛の可能性が高い」と言われたりするので、2つ以上の痛みがある場合は確認してもいいかもしれません。
問診例
- 「痛みは表層ですか?深部ですか?」
- 「痛みは皮膚(骨)に近いですか?」
まとめ
今回は、「主訴・ボディチャート」について解説しました。
痛みの評価項目には、場所、関連痛・放散痛、痛み以外の症状、頻度、強さ(重症度)、性質、深さ、がありました。1単位(20分)といった時間的な制約がある場合、優先順位をつけて痛みを評価する必要があります。
今回のボディチャートをまとめてみると、
「症状は片側、腰痛だけでなく下肢痛と母趾の痺れがある。腰痛が増悪すると下肢の痛みも増悪する。下肢痛の性質はビリビリということで神経障害性疼痛の性質である。以上のことから、片側の神経根障害(母趾の痺れからL5?)が疑われるが、梨状筋症候群、仙腸関節障害などの除外もしようか、身体評価では神経学的検査が必要そうだ・・・」といった感じでしょうか。
「症状の傾向」と合わせて整理すると、より疾患・病態の想起ができ、身体評価の内容が明確になると思います。